the scent of Jasmine ~ Akiko Endo Essay Blog

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5.13.2020

Season’s Greetings

冬から春へ、いつの間にか季節は新緑の季節となりました。
季節のお便りを申し上げます。
季節の移り変わりに気を留めるゆとりのない日々が過ぎていきました。
皆様の息災を祈りながら、今の取り巻く環境を思うと、
適切な言葉が思いつかずにいます。

私達の日常は、極めてミクロの得体の知れない存在に、
命も人生も翻弄されています。
先が見えない中で、厳しい現実が身近につきつけられています。
Pandemicを終息させる最良の方法は、
当たり前の日常を犠牲にする辛い経験を強いられます。

しかし、終息後は、この経験を通して、
私達の生活意識は変化するのではないでしょうか。
社会環境から個人生活に至る様々な次元で、
私達の意識、考え方は変わって行くのではないかと思えるのです。

この渦中で個人レベルで思うことは、今はただ、この一瞬に立って、
現実を乗り越える気力と、何がおきても動じない心を培いたいと思います。
時には萎えそうになりますが…

少しでも自分の精神力を維持できるように、つかの間に、
現実を離れて別の世界のものに気を向けて、心を疲れさせないように努めています。
現在は、歩行強化のリハビリ、トレーニングを自粛生活の中にも努めています。
外に出て、ウオーキング、エクササイズを行うのですが、
単純に歩くだけではつまらないものです。

しかし歩き始めると、その道すがらに、
家々の生垣や塀から、顔をのぞかせる季節の花々、
道端に愛らしく咲いている野生の花々に気づいて、とても心が和んだり、
温かくなったり、感動したり、本当に些細な出会いに励まされているのです。
自然の息吹に触れ合い、季節を飾る花々の世界を心のキャンバスに好きなように描いて、
色彩から感じるインスピレーションが、とりとめのない空想の世界に導きます。

歩くままに、心のままに、感じたままに、今の日々を綴りました。
その時々にポケットからiPhoneを取り出して、花々に声をかけながら、カメラに収めました。
ささやかな自然の一隅を皆様にも楽しんで頂きたく、ショートビデオに編集致しました。
2019年の晩秋から冬へ、そして2020年の早春から春へ、
東京で過ごした日々をエッセーと共にお届け致します。
お時間のある時にご覧頂ければ嬉しく思います。


2019年が暮れようとする東京で過ごした日々、懐かしい道を歩いてみました。
塀の金網から秋の草花が顔を覗かせていました。
落葉の街は色づいたツタが、昭和初期にかけられた西洋風の陸橋、
欄干と街路燈の銅の錆色が枯れ葉とマッチして、ヨーロッパの街を思わせます。
実につまらない、誰も気に留めない光景ですが、私の心を捕えます。
まるで旅人のような気分です。 

枯れ葉が舞う晩秋、2019年も暮れ迫る。2020年は、どんな未来を運んでくるのだろう。」


北風にふるえる木立に愛らしい梅の花がほころぶ、
立春間近な冬の名残のみぞれ降る夜半に、母は永眠しました。
就寝前にいつものように看護師と話をしていたようです。
看護師が就寝前の薬を取りに行き、戻った時に母は静かに眠っていたそうです。
何度声をかけても、目を醒ますことはありませんでした。

数日前に病院に立ち寄り、少しの時間を過ごしてから、
また来るねと、明るくバイバイと手を振って別れました。
それが、母との最期になるとは夢にも思いませんでした。
穏やかに、静かに、長い人生に終止符をうちました。 
数日前に一人で歌を口ずさんでいたそうです。
何故この歌を歌っていたのでしょう。

『上を向いて歩こう、涙がこぼれないように、
思い出す春の日、一人ぼっちの夜
上を向いて歩こう にじんだ星を数えて 
思い出す夏の日 一人ぼっちの夜
幸せは雲の上に  幸せは空の上に 
上を向いて歩こう 涙がこぼれないように
泣きながら歩く 一人ぼっちの夜、、、』

忍耐強い母でした。10年間ベットの上で日々、愚痴一つ言わず、わがままを言わず、
周りに迷惑をかけないように、精一杯耐える事で、
自分の生き方を示していたように思います。
お疲れさまでした。
ご苦労様、そしてありがとう。
01/27/2020

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春の嵐が襲いました。
思いがけない新型コロナ感染症拡大という抑え難い嵐が、世界に吹き荒れました。
徐々に脅威が増して、感染の抑え込みに自宅待機という自粛要請が発令された三月は、
例年より早く桜が開花しました。

《人影のない、ひっそりした桜並木で》

三月の終わりに、桜の名所の並木道を歩く機会がありました。
春爛漫、桜花が天蓋のように覆う並木道には人影はなく、ひっそりとしていました。
私の肩に桜の花が風に舞い、白雪のように降り注ぎました。
美しくもはかない抒情が漂いました。

一生懸命に咲き、一瞬に華やかに散る短い桜の命を、
人々は心から美しさを愛でて、桜を愛し、桜と共に春を謳歌する。
桜は一年に一度、この時機を待ちわびて、沢山の人と春を歓びあうのです。
寂しげに、華やかに散る桜吹雪の中で、
今は誰とも会えない日をおくる私も、桜の気持ちと同じ思いでおりました。

『春の訪れを告げる桜、長い冬の忍耐を超えて、
 一気に花咲かせて、短い命を華やかに散らして、
 また巡る春を待ち、花咲かせる。
 何年も、何年も、春が巡れば花咲き、
 春しか知らない桜は、すなおに桜の使命を未来も生き続ける。
 さくら、さくら、また春に逢おう、ありがとう』




《初夏へ、自然は休むことなく、新しい季節へと移っていきます。

マグノリアの花が咲き、草花が初夏の新しい季節を告げていました。
玄関先に白い花びらが散乱していました。
近隣から花水木の花びらが風に乗って、玄関先に吹き寄せられていました。
時にはピンク色の花水木の花びらも混じって、花びらでエントランスを飾ってくれました。
深い紫色の野生のすみれや、たんぽぽ、鮮やかなピンクの愛らしい花が、
道端に、空き地に咲き乱れていました。
路傍の小さな石のベンチに腰掛けて、無心に咲く野花に癒されながら、
陽だまりのなかのひと時を、ほんの少し過ごします。

《懐かしいジャスミンの香り》

ある日の昼下がり、滅多に通らない住宅街を歩いてみました。
甘いかぐわしい香りが漂ってきました。香りに誘われるままに歩をすすめると、
ジャスミンの群生が白い花を咲かせていた。
黄昏時にかかる、人気のない住宅地の一角で、
思いっきり香りを吸い込み、この優しい香りに癒されました。
この香りが、にわかに懐かしい思いを蘇らせました。

新緑に溢れた5月のニューヨーク。
自宅の傍に白樺の公園添いにナイトジャスミンの木が植えられています。
初夏の風が吹き渡るとき、風のそよぎに乗って、ジャスミンの香りが漂ってきます。
この香りが漂う頃、ハドソン河添いのメドウには夏草が茂り、
鮮やかなマリーゴールド、ひまわりと夏の花が周辺を彩ります。
東京のこの一角で、思いがけない懐かしい香りとの遭遇に、
ニューヨークの自宅に帰りたい気持ちにかられました。

感染に歯止めがきかないニューヨークに戻れず、東京に足止めされました。
生まれ育った場所ですが、海外生活を送る私にとり、こんなに長く滞在するのは初めてです。
けれど心は、まるで旅しているような感覚なのです。
こんな思いをしながら日を送っています。

《希望が試練に変わり》

2020年の年明けに、私は生まれて初めて除夜の鐘を打ちました。
希望に満ちた輝ける新年を期待して、祈りを込めて打ちました。
2020年を人生の最終章のスタートにするぞと、時の扉を開けました。
扉の先には、今まで遭遇したことのない世界が待ち受けていました。
未知の環境に新しい挑戦が始まりました。平和で穏やかなものではないようです。
むしろ厳しい現実を痛いほど、突き付けられるのではないかと思えてきます。

人生には予告なしの事態が起きる。
19年前、米国同時多発テロの渦中で命と向き合った瞬間が蘇ります。
それを経験していても、新たな厳しさにはひるみます。
もう一度、あの状況を思い出してみると、孤独の中で現実を受け止めて、
前に向かったエネルギーと強さがありました。

今、改めて思います。まだ走れる余裕のある年齢だった事が、
それまでと全く別の人生を進む勇気があったのだとと。
しかし、人生の最後のスパンが見えてきた現在とは、
心理的に全く違ったステージに立っているのを感じます。
あの時と同じ思いに立つ事は出来ないけれど、今だからこそ可能にする何かがあるはず。
年齢という存在に気持ちが打ちのめされることなく、
ただ、ただ、坦々と超えていこう、後ろを振り返らずに、
最期のステップまで踏みしめて行こう、と言い聞かせてます。

先が見えない未知へのチャレンジにひるみたくはないと、
私の好きな歌を聴きながら、勇気が湧いてきます。

To dream the impossible dream,  To fight the unbeatable foe, To bear with unbearable sorrow
To run where the brave dare not go, To right the unrightable wrong,
To love pure and chaste afar, To try when your arms too weary, To reach the unreachable star

一日も早く、この新型ウイルス感染が終息し、
皆様と直接お会いできる日を楽しみにしています。ご健勝と息災安穏を祈りつつ。



From Akiko Endo,  May 2020